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マリア×マリアその2ーマグダラのマリア [美術講座]

美術を彩る2人のBIGマリア、そのもう1人が「マグダラのマリア」です。キリストの弟子にして、パートナーでもあったと言われる女性。その前半生は娼婦とも伝えられ、「悔悛した罪人」の象徴的存在でもあります。あくまで清らかな聖女である(あらねばならない)聖母と違って、聖と俗の両極を併せ持ち、美術表現における振れ幅も大きいのがマグダラのマリアです。

Carlo Crivelli_Maria Magdalena_1475_マグダラのマリア_アムステルダム国立美術館_wiki.jpgdonatello_magdalene_1453-55.jpg
左:クリヴェッリ 右:ドナテッロ

上の2つを見ても、片や最新流行のモードに身を包んだファッショナブルな若い女性、片や痩せこけてボロボロの姿で流離う中年女。この両極端な違いは何なのでしょう?!(聖母マリアがこれほど異なる姿で表現されることはまずありません。)

これにはそれなりの理由があります。つまり、マグダラは複数の人物の複合体だと考えられるのです。マリアというのは当時のユダヤでよくある名前で、聖書にも何人か登場しますから、混同が起こるのは大いにあり得ることでしょう。また、類似の行為や性格を結節点に複数の人物が関連づけられたことも十分に考えられます。現代に伝わるマグダラのイメージは、おおむね次の人物&エピソードの混合体と考えられます。

・マグダラのマリア―イエスの磔刑・埋葬・復活の立会人
・「罪深い女」―イエスに悪霊を追い出してもらう、イエスの足を洗い香油を塗る
・ベタニアのマリア(マルタの妹)―イエスの話に聞き入る、イエスの足に香油を塗る(「罪深い女」と同じ行為)
・エジプトのマリア(5~6世紀の聖人)―淫蕩の生活ののち回心し荒野で修行

そもそものマグダラは「使徒たちの使徒」として、使徒の中でも指導的なポジションにあったようです。イエスとの関連で見ても、「磔刑」「埋葬」「復活」という極めて重要な場面に全て立ち会っていることから、イエスとの近さが推測できます。また、福音書の中で「マグダラ」と特定されている人物において、「回心した娼婦」という属性は特にありません。それが、5世紀に教皇大グレゴリウスによって「マグダラ」=「罪深い女」の関連づけがなされたことから、両者が同一視されるようになっていきます。そして時代が下るにつれ、使徒としての重要性よりも「悔悛した罪の女」としての側面が強調されるようになっていきました。

Tiziano_MariaMagdalena.gif
ティツィアーノ

マグダラ評価については福音書記者の間でも微妙な差があり、(女性である)マグダラが他の(男性)使徒と比べても優位な地位にあったらしいことに関して、神学的にも議論があったようです。特にペテロのマグダラへの対抗意識は非常に強く、外典や宗教文学の中で伝えられています。少なくとも宗教的権威という点では、初代教皇となったペテロが勝利したといえるかもしれません。一方マグダラは、「使徒」としての役割よりも「悔い改めた娼婦」としてのイメージが定着していきます。宗教的権威においては一歩二歩三歩…譲ってしまった感があるものの、マグダラは大変人気のある聖女で、聖母と並んで人々の篤い信仰を集め続けてきました。

聖母マリアと同様、正典だけを見ればそれほど詳細な記述のない「マグダラのマリア」ですが、こうした歴史的経緯や、外典、宗教文学を通じて多彩な伝承が残されています。特にヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説』(中世イタリアの聖職者ウォラギネの著したキリスト教聖人列伝)には、ストーリーとしても面白い波乱万丈なマグダラの生涯が記され、芸術表現に大きな影響を与えました。美術においては、聖母マリア以上に多様な表現が可能なキャラクターであったことも、画家や注文主とって魅力的であっただろうと思います。

キリスト教にはたくさんの聖人が登場します。教義上「神」はあくまで唯一ですが、神を取り巻く数多の聖人や天使たちは、神と人間の間にいて両者を取り持つ役割を果たします。特に「聖人」は元来あくまで「人間」ですから、超自然的なエピソードに彩られつつも人間的な要素を大いに持っています。それらは人々の多種多様な願望を反映し、一様ではない信仰心の受け皿となり、ヴァラエティ豊かな図像表現の系譜を形成しました。そう考えると、「宗教画」といっても人間臭いエピソードが満載で、われわれ凡人と何の接点もない雲の上の聖人君子ばかりが描かれているのではないことが分かります。現代の日本に生きる私たちは、中世やルネサンスのヨーロッパに生きた人とは文化も慣習も心性も異なりますが、人間であるという一点において、こうした違いを超えた普遍性に触れることができるのだと思います。そして、そうしたものとの出遭いは、深いところで心を癒したり高めたりする、精神の糧のようなもとなるのではないでしょうか。そうした水先案内ができればと思い、こうした講座を続けています。

第3講「ファム・ファタルの系譜」では、かのサロメ伝説の秘密に迫りました。続きは後日!

☆第1講「聖母マリア」はコチラ


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